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右隣の部屋のウクライナ人に朝と夜は無くて
ずっと青とうす紫
ネオンがぼうっと光りながらラジオが流れている
左隣の香港人の女は言い方がきついけど
狭い通路でぶつかったらすぐ謝ってくれる
彼女の稼業は暗号めいていて分からない
通路の窓から見える
オフィスビルの電気は四角い縁
浮上する
緑
ビリジアン
青
藍
むせ返る湿度
娯楽室で麻雀をする人々の
まぶしい光で影になって
ひとりでいつもの坂下に来る屋台へ
日本人なのにチャイナドレスを着て
古風だねと広東語で話しかけられる
白磁に走る藍は私の傘
ドーチェ ドーチェ
ちぢれ麺と
やけに味の薄いスープが癖になって
午後六時から始まる私の昼
五ドルで買った丸いサングラス
眉毛の上を風が通って
地下から
地上へ出るときの風と同じだからバイクに乗りたい
暗い朝焼けが欲しいから
ひりつく陽射しも緑色へなるでしょうから
日本橋の黒い朝は薄い水色になるだけだから
現像する時は黒い服を着ていた方がいいから
両眼
それでも
私の存在は雨のさなか
無言の中にある
直感を
私が気づかない間に写し出してほしい
危なくもなく
浮かんで閉ざされているスコールの世界
両手で
水のカーテンを開いていく
なんて
涼しいの……
所在がないなら
紫のダリアを活けて
薬草酒を死者の分まで用意する
極東の吹き抜けに遠く
満月が掛かる
太陽が
おそろしく黒い
現実を見るひとつの眼なら
あれはもうひとつの眼
謎めいた夢
美しい現実世界をひらく
青い満月
2020.3
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