
白い化粧品が多くなり
止まってしまった季節
より透明になりたいと
真水のようなレンズを
憧れている誰かになる
眠る前の誰かの日常を
カバンにその人と同じ
白いものをひとつだけ
私はあたらしい時代に
時間をまず脱ぎ捨てる
まるで機械で出来た人
まるで古代に生きる人
声はずっと私のままで
時が金にならない時代
怒る兵士たちを横目に
私も無表情のまま怒る
朝は白いモノに囲まれ
夜は透明になっていく
みんなの黒魔術は電影
誰にも決められない私
互い同士を味方でなく
敵でもないと認識する
浮きやすい世界の薄さ
肉を切り刻み形を整え
美しい人形が増殖する
現実の星々は忘却する
失くす必要の無かった
境界を失くした後悔と
自分は何者であったか
一体何を求めていたか
2020.3
白い化粧品
曇天
2015
白昼のビルを粉々にして
マップの中央に私を落として
背景すべるタクシーの窓
首都高を猫背で見守るライトの列
日が暮れていないのに明かりがついたら雨が降る
そういう本能で生きてきた鳥の絶叫を聞いて
コンクリートの強度を測って
高速で落ちていく楕円形
琺瑯の底にまで落ちたら
つめたいつめたい
手を触れないように
心の中で曼荼羅を描く
鉱石を見詰めている時が曇天なら
ケイト・ブッシュを聴いている時は銀色の霧
やがて見えてくるビル群の心臓はふかい緑
つめたい
冷たい緑……
私が居た中庭
誰かが隠れた階段裏
誰かが見つけた呼吸の痕跡
また鳥が鳴く
転回する朝暮
回る回る
回ったって真ん中は変わらない
心臓
2015
半月型の窓から
ひんやり降りてくる冷気
薄ピンク色のトカゲが桟からひざに飛び乗ってくる
つめたい
ひざの後ろへ回って動きを止める
私たちは止まっている
右手の烏龍茶から湯気立ちのぼり
顔まわりだけが優しくなって時は流れる
電線の流れと枝ぶりの無遠慮さは
ひざの裏にいる何かとは関係が無い
厚い白い壁 透明なガラスで遮られていることや
全身が冷たくならずに済むことについて
私は何かに淡く感謝する
けれども
あまりの低温度にこの壁が破られるとき
もはや湯気すら立たず
半円形に区切られた世界は灰色に卒倒する
何かだけがするりと逃げていく
逃げられる
体が大きい私たちは再び向こう側を探さないといけない
私はこの白い感情を百年前にも味わった気がする
夢かもしれない
大通りにはじき出された人たちと
上空に舞う紙切れを見て
残酷ですね such a grotesque と言う夢
逃走する窓
巳年